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症例10:耳介の丘疹(シーズー,6歳齢,♂)

左前肢第5指外側に数カ月前より徐々に増大する皮疹を認め、平成13年7月10日当科受診となった。
皮疹は乳白色多房状で、皮表に鱗屑や痂皮を認めない、皮表へ突出する直径10x8mmの有茎状結節であった(写真)。基部周辺皮膚に特記すべき異常はみられなかった。
臨床診断のポイント
隆起性皮疹が容積的に直径1cm程度になると結節と呼ばれます。結節は炎症あるいは増殖性疾患に起因することが多く、前者では肉芽腫を、また後者では良性腫瘍や独立円形細胞の増殖をよく経験します。
炎症性疾患や独立円形細胞による疾患は通常色調が赤くなり、さらに肉芽腫が有茎状を呈することは少ないので、自験例は皮膚良性腫瘍が予想されます。皮膚良性腫瘍の由来は、主に表皮、付属器、真皮に大別されますが、自験例は表皮の異常を示唆する皮表の変化に乏しく、さらに多房状の病巣を形成していることから、付属器の増殖が予想されます。付属器は毛包、脂腺、汗腺で構成され、小さな多房状構造は脂腺増殖の特徴の一つであることから、脂腺系良性腫瘍に合致しています。
初診時方針のポイント

皮膚に発生する腫瘍では針穿刺吸引生検による細胞診が汎用されますが、皮膚良性腫瘍における細胞診の診断意義はさほど高くありません。むしろ臨床診断が重視されます。脂腺系良性腫瘍は頭部や四肢を中心に全身に分布し、好発犬種はいわゆる脂漏犬腫(スパニエル系、テリア系、シーズー)やプードルで、さらに中年以降に好発します。したがって自験例は脂腺系良性腫瘍の典型と考えられます。
本症では局所浸潤や転移の心配がありませんが、臨床的に外傷による出血や二次感染が問題となるので、初診時方針として飼い主に経過観察とともに病巣切除術(広範な切除不要)を提案します。

参考文献:
獣医臨床皮膚科 10;183-184 2004.