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症例11:尾の脱毛
(ミニチュア・ダックスフンド,1歳齢,避妊♀)

3カ月齢時に尾端と耳尖の腫脹が生じ近医受診、プレドニゾロンで改善するも休薬後皮疹が新生し、平成14年11月12日当科紹介受診。尾に脱毛を伴う不整な褐色を帯びた浮腫による腫脹がみられた(写真)。耳輪では同様の皮疹とともに鱗屑が認められた。一般状態に特記すべき異常はみられなかった。
臨床診断のポイント
耳介や尾などの末梢に皮疹を認めた場合、感染症、代謝異常、外傷あるいはその関与により重傷化しやすい水疱症、循環障害などを検討します。感染症では寄生虫、真菌、細菌、代謝異常では種々の内分泌疾患、水疱症では先天性表皮水疱症と自己免疫水疱症(エリテマトーデス、後天性表皮水疱症など)を検討します。感染症では炎症を示唆する所見や角化異常を伴うことが多く、水疱症では水疱あるいは続発疹として痂皮や潰瘍を認めます。一方循環障害は、病因や重症度により脱毛、腫脹、潰瘍、鱗屑痂皮など様々な皮疹を呈します。自験例では脱毛や浮腫を特徴としていることから、循環障害が予想されます。なお皮疹は代謝異常も鑑別ですが、発症年齢および一般状態に異常を認めないことから否定的と考えられます。
初診時方針のポイント

循環障害の病因は、血管内異常と血管壁異常に大別され、さらに前者では貧血(血液疾患、心疾患、低血圧)、血管内凝固疾患、後者では血管炎や血管症(虚血性皮膚障害)を鑑別します。またその誘因や悪化因子として寒冷刺激が関与することもあります。したがって詳細な身体検査と共に、臨床検査として血液検査、凝固系検査、寒冷凝集試験、さらに皮膚生検が施行されます。また感染症の鑑別として皮膚掻爬検査、毛検査、真菌培養検査、水疱症のうちエリテマトーデスに対して抗核抗体検査が有用です。なお確定診断が得られるまで、感染症を考慮した治療的評価、さらに寒冷期発症例では末梢の冷えを避けた生活を指導しています。自験例は諸検査で特記すべき異常なく、血管症(虚血性皮膚障害)に合致した組織像が認められました。

獣医臨床皮膚科 11;19-20 2005.