Top page > Members Only > 症例14:腹部の脱毛(短毛猫,6歳齢,去勢♂) 
症例14:腹部の脱毛(短毛猫,6歳齢,去勢♂)

平成14年6月に腹部の脱毛を認め近医受診、バリカン処置後脱毛が拡大し同年9月に転院、抗ヒスタミン薬で治療するも改善なく平成15年6月7日当科紹介受診。定期的なノミ防除なく、食事は市販まぐろ缶とw/dドライ、おやつにササミを与えていた。ペット不可のマンションで飼育、3歳頃より順次同居猫2頭が加わった。トイレは2カ所しかない。既往歴に血尿あり。腹部から大腿にかけて、また前腕内外側に境界明瞭な脱毛領域を認めた(写真)。
臨床診断のポイント
猫は犬と異なる皮疹パターンをもち、自験例でみられた腹部の脱毛は猫で比較的よく経験する徴候のひとつです。過去に猫内分泌性脱毛症と呼ばれていた時期もありましたが、これら症例に明らかな内分泌異常を認めることはありません。バリカンで刈ったように脱毛と健常被毛が明瞭に区画されるのを特徴とした、反複する舐性行動に起因する外傷性脱毛症です。本症を腹部に認めた場合、その病因として感染症(ニキビダニ症)、アレルギー(ノミアレルギー性皮膚炎、食物アレルギー)、非特異的な皮膚科的問題(傷、局所治療、肛門嚢異常)、内科疾患(甲状腺機能亢進症、肝疾患、泌尿器疾患、消化器疾患、整形外科疾患)、精神的要因などに注目しています。自験例ではすべて病因が合併している可能性も否定できません。
初診時方針のポイント

外傷性脱毛症では、毛の状態をみて外傷の関与を評価します。舐めている猫では健常な毛尖が認められず毛幹部分で折れ、代謝異常による脱毛では毛尖がみられます。初診時には臨床像と毛検査で外傷か否かを丁寧に評価し、病因検討を目的とした検査としてニキビダニを考慮した皮膚掻爬検査、アレルギーを考慮した皮内反応や血清IgE検査(Allercept, Heska)、寄生虫や内科疾患を考慮した血液検査、T4値測定、腹部X線検査、尿検査、さらに精神的要因による自傷を考慮した皮膚生検を検討すべきでしょう。初診時に選択する治療的評価として、ノミ防除、除去食試験、精神療法が有用です。