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症例18:腹部の潰瘍(シェルティー,13歳齢,♀)

 約1カ月前に腹部に赤い斑を認め、数日後にジクジクしたかさぶたとなり、腋窩、耳介に拡大した。近医にて抗生剤等で治療後平成14年5月21日当科紹介受診。腋窩、鼠径、腹部を中心に輪状、多環状、および蛇行性の紅斑および潰瘍を認めた(図)。同皮疹は口唇、歯肉、肛囲、耳介内側にもみられた。

臨床診断のポイント

 真皮に達する皮膚欠損を潰瘍(かいよう)と呼び、その底面には出血や漿液滲出、あるいは膿などを認めます。潰瘍は、外的要因として物理化学的刺激、また内的要因として表皮(免疫介在性、先天性、悪性腫瘍)および真皮(感染、循環障害)の組織破壊によって生じます。自験例では皮疹分布に規則性があり内的要因の関与が示唆され、さらに真皮病理変化に乏しいことから表皮に起因した疾患が予想されました。皮疹は中年期に急性発症しており、病歴は先天性疾患や腫瘍よりも免疫介在性に合致していました。潰瘍を生じる表皮の免疫介在性疾患としてエリテマトーデス(LE)、多形紅斑-中毒性表皮壊死症(EM-TEN)、尋常性天疱瘡(PV)、水疱性類天疱瘡(BP)があげられ、シェルティーの腹部に生じた環状皮疹より水疱性皮膚エリテマトーデス(VCLE)が疑われました。

初診時方針のポイント

 免疫介在性疾患の評価には精査が必要です。いずれの疾患も皮膚生検による病理組織学的検査が有用です。VCLEでは組織学的に表皮基底層付近の浮腫とともに同部位および真皮浅層から中層においてリンパ球を主体とする単核球の浸潤がみられ、その結果として真皮表皮境界の裂隙による水疱形成を特徴としています。さらに詳細な検討に際して凍結組織を用いた蛍光抗体直接法や血清を用いた蛍光抗体間接法が有用です。LEの病型診断には通常の血液検査、尿検査、X線検査などとともに抗核抗体試験が不可欠です。全身性LE(SLE)では90%の症例において抗核抗体陽性であるのに対し、VCLEは通常陰性です。自験例の臨床病理学的所見はVCLEに合致していました。
 確定診断前の初診時治療として、二次的な細菌感染を考慮した全身性抗生物質の投与が必要です。
特異的かつ積極的な薬物療法は確定診断後に実施しますが、これに先立ってSLEのひとつの特徴である光線過敏を考慮した直射日光の回避を指導しておくとよいでしょう。