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症例23:耳介の潰瘍 (猫,15歳齢,避妊♀)

1年前より左耳輪に鱗屑がみられ、半年前より徐々に隆起、さらに中心性に潰瘍が生じ近医受診。掻破による出血がみられ、精査目的にて当科紹介受診となった。左耳輪に境界明瞭な隆起がみられ、中心には大きな潰瘍を形成していた。下顎リンパ節腫大はみられなかった。

臨床診断のポイント

  隆起性皮疹はその大きさにより丘疹、結節、腫瘤に大別されます。丘疹と結節の境は概ね5-10mmであり、腫瘤(しゅりゅう)とは結節よりもさらに大きく激しい増殖傾向を示す隆起です。病理学的に結節は肉芽腫や良性腫瘍であり、腫瘤は悪性腫瘍を示唆しています。猫の皮膚に生じる悪性腫瘍で最も発症頻度の高い疾患が有棘細胞癌であり、鑑別は基底細胞癌、脂腺癌、線維肉腫、メラノーマ、肥満細胞腫、リンパ腫などです。有棘細胞癌は白色被毛を呈した高齢猫の耳介に好発し、ゆっくり進行します。また腫瘤は潰瘍を呈し、出血を特徴としています。以上より、有棘細胞癌と臨床診断しました。

初診時方針のポイント

  有棘細胞癌の確定診断には病理組織検査が不可欠であり、分化度に加え腫瘍細胞の異型性、浸潤の深さ、細胞分裂数などを考慮して生物学的な悪性度を判定しています。その際は診断を目的とした小さな生検ではなく、治療をかねた病巣の切除術が選択されます。したがって事前に細胞診で、異型性を有した表皮細胞様細胞(淡青色の豊かな細胞質を有した有核細胞)がみられると方針が固まります。本症は局所浸潤を特徴としていますが、局所リンパ節や肺などの遠方転移も懸念され、常に悪性腫瘍としての全身の評価が必要です。