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症例24:鼻の結節 (雑種犬,8歳齢,避妊♀)

平成20年3月20日に鼻付近に惹干隆起した擦り傷を認めた。翌日には脱毛を伴う結節となり同月22日近医受診、タリビッドを処方されるととともに、同月25日当科紹介受診。

臨床診断のポイント

 結節は病理学的に炎症や良性腫瘍であり、腫瘤は悪性腫瘍を示唆しています。自験例の経過はきわめて急性で、発赤や浸出液がみられたことから、炎症による結節が予想されました。病因鑑別は、異物、虫刺症、感染症による、あるいは特発性の炎症や化膿性肉芽腫です。自験例は表皮の変化に乏しく脱毛がみられたことから、毛包を基点とした感染を中心に、まれな細菌や真菌による深在性感染症、また念のため肥満細胞腫を考慮すべきでしょう。感染性毛包炎では寄生体としてブドウ球菌、皮膚糸状菌、ニキビダニを重視していますが、ブドウ球菌やニキビダニは犬の健常皮膚に分布し、通常ここまで急性かつ限局的な隆起病変をつくらないことから、皮膚糸状菌の関与を疑いました。

初診時方針のポイント

 感染性毛包炎の診断には、臨床像に精通するとともに検査と治療的評価が不可欠です。犬の皮膚糸状菌のうち分離率が最も高いMicrosporum canisの評価には、鱗屑や毛の鏡検が実施されますが、この検査による他菌の検出は容易と言えず、常に真菌培養検査を実施しています。なおウッド灯検査もM. canisを対象とし他の菌種に有用とは言えません。皮膚糸状菌以外の感染症および肥満細胞腫には毛検査、皮膚掻爬検査、培養検査、針穿刺吸引生検による細胞診、さらに抗生剤による治療的評価が有用です。確定診断には皮膚生検が力を発揮しますが、多くの飼い主が麻酔や侵襲性を有した検査を行うことなく迅速かつ適切な治療を求めてきます。