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症例26:耳介の腫脹
(ゴールデン・レトリバー,8歳齢,避妊♀)

平成19年10月頃より腹部に皮疹が生じ近医受診、対症療法で軽快せず平成20年9月5日当科紹介受診。腹部は皮疹に乏しく、むしろ後肢の外傷性脱毛や外耳の発赤や耳垢がみられた。脂漏性皮膚炎と診断し耳洗、その翌日耳介に緊満性の腫脹が生じた。

臨床診断のポイント

 隆起性病変にはサイズによって丘疹、結節、腫瘤がありますが、これらはいずれも充実性病変であり、同じ隆起性でも内容を有す皮疹に水疱、膿疱、膿瘍、嚢腫があります。犬の皮膚は薄く、水疱や膿疱は脆弱故、通常サイズは小さく、すぐにびらん痂皮へ移行します。一方嚢腫は真皮内に生じた空洞で液体や固形物を含んでいることから、サイズも大きく持続的です。その内容は膿汁、血液、汗、あるいは角化物や皮脂等です。自験例の皮疹は大きな緊満性隆起であり嚢腫に合致、発疹の分布および急性発症より血液の充満した血腫が示唆されました。

初診時方針のポイント

 血腫では診断と治療を兼ねて血液を排除します。耳介血腫では一般に針穿刺吸引が汎用されているようですが、出血が持続していればすぐにもとの状態に戻ってしまいます。そこで耳介血腫では局所麻酔や鎮静処置下で4-6mmパンチによる排液孔を作り、念のため嚢腫壁に相当する組織を病理検査に供しています。血腫内腔に凝固物等が残留しないよう洗浄後、血液が飛び散らないように包帯やスヌード(耳カバー)を装着させることもあります。なお病巣の止血、また炎症や瘢痕組織に配慮して、止血剤やステロイドを使用しています。