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症例29:慢性のかゆみ
(ラブラドール・レトリバー,6歳齢,避妊♀) 3歳頃から腹部に掻痒が生じ近医受診、ステロイドにて軽快。その後春になると痒みが新生、発疹は眼囲、肘窩、大腿内側、耳介内側にも拡大、ステロイドとともにシクロスポリンが処方されるも通年性に皮疹が出没し、平成20年11月12日当科紹介受診。 ![]() 臨床診断のポイント
犬の紅斑では感染症による炎症が重視されますが、炎症とは様々なイベントにより生じる生体反応のひとつです。したがってその病因として、常に局所外的要因にも配慮する必要があります。このような炎症は通常一過性ですが、持続する場合には発症および重症化しやすい宿主側要因にも眼を向けます。皮膚炎が持続すると苔癬化(皮野形成が著明な状態)が生じ、このような臨床をヒトでは湿疹と呼んでいます。犬では湿疹という用語の使用を避ける傾向にありますが、これを主徴とする疾患が犬アトピー性皮膚炎(cAD)です。本症の診断には種々の考案があるも、自験例のように若い時期より特定領域(眼囲、口囲、肢端、間擦部)にかゆみと皮膚炎を繰り返す症例を定型としています。 初診時方針のポイント
cADの診断基準は未だ標準化されておらず、診断には皮疹を診る力が要求されます。なお血清IgE測定は本症の評価に有用ですが、ラボによって精度や数値が多様であり、その評価には疫学的な臨床的裏付けが不可欠です。またアトピーに限らず定型的な皮膚炎では迅速かつ適正な炎症に対する薬物療法が必要であり、通常外用ないし経口ステロイドが処方されます。ただしcADでは微小機構、感染、アレルギー、精神因等様々な要素が重責しやすく、これらは除外すべき疾患でもあり、多角的な臨床的対応(スキンケア、感染症対策、アレルゲン除去、環境療法)が要求されます。 |