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症例30:しこり
(ポーリッシュ・ローランド・シープドッグ,8歳齢,避妊♀)

1年以上前より右脇腹に小さな柔らかいしこりがあり様子をみていたが、数カ月前より増大が著しく平成21年10月20日当科受診。自覚を思わせる行動はみられない。皮疹はドーム状に隆起する境界明瞭な緊満性球状物で、下床との可動性は良好であった。健常毛に乏しいが、付着物や色調の変化はなく、毛細血管がやや拡張していた。

臨床診断のポイント

 隆起性病変は丘疹、結節、腫瘤に大別されますが、これらはいずれも充実性です。同じ隆起性でも内容を有す皮疹に水疱、膿疱、膿瘍、嚢腫があります。嚢腫は真皮内に生じた空洞で液体や固形物を含んでいます。これは水疱や膿疱と比べてサイズが大きくなりやすく、通常球状を呈し、血液(血腫)、汗(汗嚢腫)、あるいは角化物や皮脂(毛包由来嚢腫)等が充満します。自験例の皮疹は嚢腫に合致、月単位で増大し、色調の変化や脆弱性に乏しいことから、角化物や皮脂を充満させた表皮嚢腫などの毛包由来嚢腫が示唆されました。

初診時方針のポイント

 毛包由来嚢腫は臨床診断が可能ですが、診断の裏付けとなる検査として針穿刺吸引生検が有用です。悪臭を放つ粥状物(ペースト状角質)が採取され、医学領域では粥腫あるいはアテロームとも呼ばれます。細胞診では炎症細胞や腫瘍細胞を伴わない皮脂や角化物を特徴としますが、メタノール固定時にこれらは流されてしまうこともあります。本症は通常切除により軽快します。悪性ではありませんが、多発例もあり様子を見ながら切除を検討しています。