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症例34:脇腹のしこり
(ゴールデン・レトリバー,10歳齢,♂)

2年前より右脇腹付近にしこりを認め平成22年1月5日当科受診、飼い主様のご希望で経過観察、その後皮疹は縮小増大を繰り返し同年9月7日再診となった。皮疹は周囲と境界明瞭な皮表に突出するややむらのある淡褐色を呈した毛包に乏しい多房性の隆起であった 。

臨床診断のポイント

いわゆるしこり(固まり)は炎症や良性腫瘍による丘疹結節と悪性腫瘍を示唆する腫瘤に大別されます。これらは通常充実性で、真皮内空洞における液体や固形物の貯留は嚢腫(のうしゅ)cystと呼ばれます。嚢腫の多くは厚い嚢腫壁を有した毛包系嚢腫と比較的薄い嚢腫壁を有したアポクリン汗腺の嚢腫です。自験例の多房状を思わせる構造と脆弱性を思わせる経過は後者に合致していました。

初診時方針のポイント

アポクリン汗腺の嚢腫は通常薄い包膜を特徴としますが、自験例は表皮様包膜を呈しており、毛包系嚢腫と鑑別を要しました。毛包系嚢腫は内腔に皮脂や角化物による粥状物を、また汗腺の嚢腫は腺分泌液を充填させます。したがってその評価には針穿刺吸引生検が有用です。自験例では褐色の液体が大量に採取されたことからアポクリン汗腺の嚢腫と診断されました。なおいずれの嚢腫も通常は持続し、外的刺激による構造破壊も懸念されることから、増大傾向がみられる場合は診断と治療を兼ねた切除術を提案しています。