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症例36:腰部の湿潤性紅斑
(ビション・フリーゼ, 5歳齢, ♂)

幼少より自傷がみられ、近医にて随時対応されていた。徐々に発疹が頻繁に生じ、重症化、持続化する傾向がみられ、急性に生じた腰部の発疹を主訴に平成20年12月2日当科紹介受診となった。腰部に糜爛と脱毛を伴うやや隆起する紅斑を認め(図)、両後肢指間や口囲に唾液による染色がみられた。

臨床診断のポイント

びらんとは真皮に到達しない表皮の欠損であり、真皮に及ぶ皮膚欠損は潰瘍と呼称されます。びらんの病因は、外因性(物理的刺激、感染症)と内因性(免疫疾患)に大別され、通常前者は偏在性、限局性、後者は対称性、汎発性の皮疹を特徴とします。自験例の皮疹は偏在性のびらんであり、さらに急性発症より物理的刺激が予想されました。腰部は自傷による急性外傷性皮膚炎、いわゆるホットスポットの好発部位です。掻破の病理発生は明らかにされていませんが、生理的な痒み等による一過性の発症から、何らかの身体因、あるいは精神因による持続性ないし反復性の発症まで多彩です。自験例では幼少から掻破行動がみられることから、先天的要因(皮膚、神経、関節等)や精神因の検討が必要と思われました。

初診時方針のポイント

ホットスポットでは皮膚科的に感染症の検査(毛検査、皮膚掻爬検査、培養検査)、また皮膚の器質的特性の評価に皮膚生検が有用です。皮疹周囲に皮膚炎がみられるようであれば、ノミや食物によるアレルギーに配慮したアレルゲン回避が行われます。非皮膚科的要因の評価として、少なくとも肛門嚢、腰椎、股関節等の臨床的、あるいは画像的検討が必要です。これらが否定的であり、さらに発症のパターンや生活歴の詳細な検討により、精神因の有無を推察することができます。