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症例38: 躯幹の角化性皮疹
(トイプードル,13歳齢,去勢♂)

数年前より躯幹に痒み行動がみられ、近医にて数週毎にステロイド製剤の注射で管理されていた。徐々に効果に乏しくなり、約1ヵ月前より躯幹背側に限局した環状の皮疹が生じ(図)、平成23年10月23日当科紹介受診となった。上記発疹に触れると痒み行動が誘導されるも、躯幹では発疹のない領域でも知覚過敏がみられた。

臨床診断のポイント

皮表に厚い鱗屑(りんせつ)の付着がみられます。鱗屑とは表皮角層の剥脱物であり、表皮の細胞増殖が顕著な場合、角層の固着力が増強した場合、水疱や膿疱が先行した場合に生じます。限局的な環状ないし遠心性に拡大する形態では、感染症、角化異常(亜鉛関連性皮膚症、皮膚エリテマトーデス)、非感染性膿疱症などが鑑別です。疾患の頻度より、まず感染症、特に膿皮症、ニキビダニ症、皮膚糸状菌症に注目します。自験例の皮疹は躯幹背側にきわめて限局的に生じており、さらに鱗屑下に局面状の紅斑がみられること、さらに通院中の高齢プードルであることから、膿皮症よりもニキビダニ症や皮膚糸状菌症に配慮しました。なお先行する痒み行動は明らかな皮疹に乏しく、神経原性の徴候を検討する必要がありました。

初診時方針のポイント

感染症に対する方針はこれまで幾度も触れてきました。自験例では膿皮症を強調しない皮疹の評価が要求されました。スクリーニング検査としてニキビダニ症では毛検査や皮膚掻爬検査が、また皮膚糸状菌症ではメス刃#10により採取した鱗屑や毛の鏡検が有用です。後者では補助的な診断として皮膚真菌培養検査やウッド灯検査も選択されます。いずれもスクリーニング検査で確定できない事例があり、確定診断には皮膚生検が適正です。自験例では鱗屑や毛の鏡検により、健常毛と異なる不整な形態と色調を呈した毛が観察され、強拡大により毛幹皮質内にMicrosporum canisに合致した石垣状の小胞子様菌要素の増殖を認めました。また知覚過敏の評価として脊椎のX線検査、年齢および長期薬物療法に配慮した血液検査も実施しました。