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症例4: 耳介の丘疹(雑種猫,年齢不詳,避妊♀)

屋外飼育猫で、数年前より夏になると耳介外側を掻く仕草とブツブツがみられ、平成3年8月11日当科受診。毎年涼しくなると自然消退する。耳介外側には淡色被毛部を避け黒色領域に限定したびらんを伴う丘疹痂皮が散在していた(写真)。同様の皮疹は鼻梁にもみられた。
臨床診断のポイント
夏に発症ないし悪化する耳介の疾患として光線の関与する疾患(日光皮膚炎、光線過敏性皮膚炎、有棘細胞癌)があります。これらは通常淡色被毛に発症しますが、自験例の皮疹はむしろ黒色被毛領域分布に強調されています。またかゆみがみられるようですが、その性状は掻破痕(耳疥癬、疥癬、アレルギー、耳垢過多など)ではなく、丘疹痂皮を特徴としています。丘疹の鑑別は皮膚糸状菌症、落葉状天疱瘡、蚊刺症ですが、皮膚糸状菌症は季節性なく、落葉状天疱瘡はより広範な鱗屑痂皮を特徴としています。屋外に出る短毛猫であり、臨床像は蚊刺症に合致しています。
初診時方針のポイント
蚊刺症を疑う症例では、蚊の忌避を指導しています。本症では、この対応により皮疹の改善を認めます。もちろんすでに発症している皮膚炎の治療にはステロイド剤が有効です。なおステロイド剤を使用する場合は、外猫を考慮したウイルス感染の評価が不可欠です。本症では通常血液検査で好酸球増加症が、さらに皮疹部塗沫標本の細胞診で好酸球浸潤がみられます。
獣医学成書では、本症を蚊刺過敏症(あるいは蚊アレルギー)と呼んでいますが、人における蚊アレルギーは蚊吸血により全身症状が生じます。猫の症状は蚊吸血に対する局所皮膚免疫応答なので、いわゆる虫さされを指す蚊刺症と呼ぶのが妥当と考えています。
参考文献
獣医臨床皮膚科 9;79-80, 2003.