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症例40:
躯幹の角化性皮疹
(ミニチュアシュナウツアー,12歳齢,♂) 肢端の舐性行動を認め平成19年9月2日M動物病院受診、右前肢掌球遠位に亀裂を思わせる皮疹がみられた。外用薬と包帯により治療するも1ヵ月後には構造のゆがみが生じ、平成20年2月10日当科紹介受診となった。 ![]() 臨床診断のポイント
皮膚構造のゆがみは本来の組織が欠損、あるいは別の組織に置換された状態を予想します。先天性では奇形や過誤腫、後天性では外傷、炎症、腫瘍などがあげられます。自験例では、中心がやや嵌凹し辺縁が不整ながら防波堤状に隆起し、出血や潰瘍がない境界やや不明瞭な結節でした。外傷による欠損や瘢痕では説明しがたい不整な形態を示し、さらに炎症を示唆する明らかな発赤、熱感、腫脹、あるいは疼痛を思わせる徴候を欠き、さらにその大きさは緩徐に進行していました。したがって腫瘍を考慮すべきであり、毛包を欠いた肉球ではその由来として表皮、メラノサイト、エックリン汗腺、軟部組織、独立細胞等が鑑別になります。自験例の皮表は保持され潰瘍やびらんはみられず、一方で皮表を圧排する傾向にも乏しいことから、メラノサイトやエックリン汗腺が疑われ、また黒色の色調が非対称性であることからメラノサイトーマとメラノーマを予想しました。 初診時方針のポイント
皮膚腫瘍を疑うとすぐに細胞診を実施する方もいますが、細胞診の所見は断片的ゆえ確定診断に繋がる腫瘍は限定されています。その実施には、常に的確な臨床診断が求められます。また細胞診により転移や腫瘍随伴徴候を誘導しやすい腫瘍が存在することも忘れてはいけません。ヒトにて細胞診を禁忌とする悪性腫瘍がメラノーマです。したがって、自験例では安直に細胞診を実施することができません。メラノーマを疑う場合、病巣の完全切除による病理診断、また転移に配慮しセンチネルリンパ節生検(腫瘍細胞が最初に流れ着くリンパ節の生検)を実施します。なおメラノーマは多臓器に転移しうることからX線撮影はもちろんのこと、精査として麻酔下生検時に軟部臓器CT検査や脳のMRI検査を提案しました。自験例では生検時に肺や脳にメラノーマの転移病巣がみつかり、発症から10ヶ月後に死亡しました。 |