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症例48:猫の落屑
(ノルウェジアン フォレストキャット,1歳齢,去勢♂)

鼻や眼等にかゆみと赤い発疹が生じ近医受診、ステロイド含有スプレーやクリームで治療するも脱毛が生じ、皮膚糸状菌症を疑いイトリゾール、ミコナゾール含有外用薬で治療後、外傷阻止を目的にエリザベスカラーを装着し平成25年12月22日当科紹介受診。鼻梁を中心に、被毛の色調変化を伴う脱毛がみられた。

臨床診断のポイント

脱毛の病理発生は、毛の異常、毛包構造の異常、毛包機能の異常の3つに大別されます。毛の異常は通常物理的刺激が関与することから、脱毛の境界が明瞭です。毛包構造の異常は毛包炎により生じることが多く、色調の変化や隆起を認めます。その病因として感染が多く、遠心性に拡大する傾向があります。毛包機能の異常は毛周期の異常であり、その病因として代謝や循環が関与します。通常は規則性あるいは汎発性に分布しますが、外的要因の関与した発症では皮疹が偏在します。自験例の皮疹は病歴より毛の異常(外傷)も疑われましたが、脱毛と健常の境界が不明瞭でした。また毛包炎を示唆する明らかな皮膚の隆起や紅斑はみられず、遠心拡大性を思わせる皮疹の動きもみられませんでした。したがって自験例の脱毛は、毛包機能の異常に合致、さらに脱毛は限局しているので、外的要因、特に病歴より外用薬の関与が疑われました。毛は黄褐色を呈し、皮表には黒褐色付着物を認め、これらは外用薬の関与を示唆していました。なお当初みられた赤い発疹はカラー装着後消退しており、非特異な痒みによる外傷が予想されました。年齢および発疹の分布からは皮膚糸状菌Microsporum canis感染に配慮が必要と思われました。さらに鼻梁の鑑別疾患として蚊刺症や天疱瘡等を考慮しましたが、少なくともこれら疾患は脱毛を特徴としません。

初診時方針のポイント

鑑別として最も重要なMicrosporum canis感染を否定すべく、鏡検、ウッド灯検査、真菌培養検査を実施しました。猫では健常であっても体表にMicrosporum canis寄生を認めることがあり、真菌培養検査で真菌要素を認めても起因菌と断定することはできません。したがって、Microsporum canis感染症の診断には、鏡検にて菌の増殖を認める必要があります。サンプリングの方法と鏡検には知識と技術が要求されますが、理論的に対応すれば適正に実施することができます(前回の皮疹を診る参照)。ちなみに真菌培養検査を皮膚糸状菌試験培地で行った場合、汚染菌が培地を充填させる集落を形成した後に皮膚糸状菌陽性と同等の色調変化を認めることがあります。Microsporum canis感染症の色調の変化は、集落形成に同調して認めることを特徴とします。自験例では、上記すべての検査で真菌要素を認めませんでした。そこで臨s床診断に基づき、外用薬を中止するとともに、先行する非特異な痒みの対症療法としてグルココルチコイド製剤を使用しました。猫は犬に比べグルココルチコイドの薬用量が多く、プレドニゾロンの標準的抗炎症量を2mg/kgと記載する成書もあります。猫への投薬は我々獣医師であっても苦労することから、家庭における処方は極力小さな剤型になるよう配慮しています。そこでプレドニゾロンよりも力価の強いトリアムシノロン0.2mg/kgを汎用しています。自験例ではレダコート4mg 1/4錠1日1回(導入数日1日2回)を処方し約1ヵ月後には軽快、カラーを外すことができました。