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(シェットランドシープドッグ,6歳齢,♂)
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症例56:鼻の潰瘍
(シェットランドシープドッグ,6歳齢,♂) 平成28年1月下旬に右鼻に丘疹、徐々に隆起、鼻水、くしゃみを訴え同年2月4日近医受診、セファレキシンで改善なく左側も腫脹し当科紹介受診となった。 ![]() 臨床診断のポイント
自験例の脱毛は境界が不明瞭、やや皮膚が紅く感じますが特徴的な原発疹を欠いていました。したがって毛や毛包の病的状態の典型とは言えず、毛周隆起性病変は、人で直径5-10mm以下を丘疹、5-30mmを結節、30mm以上の増殖傾向が強い隆起を腫瘤と呼びます。動物も人に準じた呼称が用いられています。丘疹は主に炎症、結節は炎症、肉芽腫、腫瘍、腫瘤は一般に悪性腫瘍を疑います。自験例は丘疹に始まり、右側に偏在しながら鼻平面下方の境界明瞭な隆起を特徴とし、鼻孔を狭窄していました。大きさと増殖の早さより腫瘤と判断できます。病変は比較的境界明瞭で、皮表はなめらかで、舌が触れる領域にスムースな辺縁を有した平坦な潰瘍を呈し、痂皮や出血は軽微でした。非上皮性固形がんを疑いました。ただしこの領域は鼻道に起因する病変も予想され、隆起初期に丘疹がみられたことより皮膚深層に生じた悪性腫瘍、特に扁平上皮癌の皮膚浸潤が鑑別でした。なお鼻では粘膜領域の感染性肉芽腫として、クリプトコックスを代表とする深在性真菌症等も発症するので注意が必要です。 初診時方針のポイント
腫瘤では常に悪性腫瘍に対する方針として、皮膚生検による確定診断が必須です。病巣のサイズにもよりますが、できれば一病変を切除するよう努めています。もちろん自験例にように広範な病巣の切除が容易ではない場合、迅速な悪性腫瘍の対応を想定しながらまず部分生検を実施します。なお細胞診ですが、悪性腫瘍の一部は針穿刺により細胞を拡散するリスクがあります。この検査も部分生検と同様に慎重な扱いが要求されます。いずれにしても、鼻の生検には麻酔処置が必要なので、血液検査と胸部X線検査を実施しました。胸部X線検査は転移の評価をかね、さらに局所浸潤を探るべく鼻も撮影しました。同様の目的で飼い主様には麻酔時にCT検査の実施もご提案しました。 |