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症例6:肢の局面(ミニチュア・ピンシャー,9歳齢,♂)

約3週前に右前肢端に隆起する病変を認めた。緩徐な増大傾向を示し、平成15年4月5日当科紹介受診。右手根近位外側に限局した有茎状弾性軟の結節(8x9x3mm)を認めた。皮表は脱毛し、紅色で、軽度ながら鱗屑がみられた(写真)。
臨床診断のポイント
 隆起性皮疹が直径1cmを越えると結節と呼ばれます。結節は炎症あるいは増殖性疾患に起因することが多く、前者では肉芽腫を、また後者では主に付属器、結合織、神経の良性腫瘍や、独立円形細胞(リンパ球、肥満細胞、組織球)の増殖をよく経験します。結節を呈する肉芽腫や皮膚良性腫瘍は通常発赤を認めないことから、自験例では血管変化を伴いうる独立円形細胞による疾患、すなわち肥満細胞腫、皮膚リンパ腫、いわゆる皮膚組織球症が予想されました。肢端に生じた脱毛を伴う境界明瞭な単発性のボタン状隆起からは皮膚組織球腫が疑われました。皮膚組織球腫は比較的若い個体に好発しますが、時に高齢犬にも生じます。
方針のポイント
皮膚に発生する腫瘍では臨床診断を重視し、その裏付けを取る方針として針穿刺吸引生検による細胞診が汎用されます。特に独立円形細胞と悪性腫瘍(通常結節よりも激しい増殖態度を示す)で有用性が高いです。自験例では、多形性のある異型性を伴わない組織球様細胞が認められました。胞体内に異染性顆粒を呈す肥満細胞腫、異型性を有したリンパ球様細胞が浸潤する皮膚リンパ腫の所見に乏しく、皮膚組織球腫と診断しました。
皮膚組織球腫は組織球の良性腫瘍と考えられてきましたが、ランゲルハンス細胞の反応性増殖性疾患であることが明らかにされました。人にも本症に相当する疾患が発症し、ランゲルハンス細胞組織球症と呼称されています。本症は自然軽快しうるので、切除術や薬物療法による治療とともに、経過観察を選択することもあります。
参考文献
獣医臨床皮膚科 9;181-182, 2003.