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症例61:顔のむくみ
(カニンヘンダックスフンド,4ヵ月齢,♂)

平成29年5月購入時に顔のむくみがみられた。その後ワクチン接種、むくみは徐々に悪化、四肢、耳介、包皮、尾根にも拡大し平成29年6月28日当科紹介受診となった。明らかな体調不良は認められなかった。

臨床診断のポイント

むくみは沈着物や浮腫により生じ、自験例は年齢的に先天性疾患が予想されます。幼少時にみられる沈着物の代表がムチンであり、チャイニーズシャーペイの皺がその典型です。むくみは幼少期に強調され、成長に従って減少します。同様の現象は甲状腺機能異常による粘液水腫として生じることも知られています。ムチン沈着によるむくみは弾性があり、一方浮腫では押さえつけた部分に圧痕が生じます。浮腫は間質における体液の過剰であり、心疾患とともに低アルブミンによる血漿膠質浸透圧の低下、血圧の上昇、また末梢では毛細血管透過性の上昇、リンパ流の遮断などにより生じます。リンパ液の貯留が持続すると皮膚の増生が生じ、血管機能異常では皮膚の萎縮やびらん潰瘍、さらに毛包萎縮による脱毛が生じます。自験例は飼育当時よりみられるむくみが進行、たるみをもち弾性に乏しく、明らかな発育障害や体調不良はなく、皮膚は脱毛を含む萎縮傾向がみられることから、血管機能の特性による血行障害が疑われました。

初診時方針のポイント

圧痕形成を確認した後、アルブミン、心機能、血管機能の評価が必要です。自験例のアルブミンはやや低めでしたが、年齢および近医で実施された過去結果との比較にて浸透圧異常は否定的でした。聴診、胸部X線検査、心超音波検査、心電図でも特記すべき異常はみられませんでした。犬において皮膚血管機能の評価は確立されていませんが、当科では皮温測定、血圧測定、皮膚生検を実施しています。皮温は循環障害の生じやすい耳介で測定しています。また血圧はオシロメトリック法で測定しています。経験的ですが、皮膚血管症では不安定な血圧を示す傾向があります。皮膚生検は健常部位とむくみの2箇所を採取し、浮腫とともに真皮結合織や血管の構造的評価を行っています。自験例の組織では少なくとも沈着物、リンパ管や肥満細胞の関与した異常を認めず、真皮結合織の不規則な配置や染色性がみられました。以上所見は血管症による血行障害に起因した浮腫に合致していました。