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症例62:耳漏
(パグ,11歳齢,去勢♂) 若い頃より両耳道が汚れやすく随時加療、数年前より徐々に左側の臭いが強くなり外用ステロイド製剤や全身性抗菌薬で治療、最近耳漏が赤く、さらに耳下のしこりに触れ平成29年8月25日当科紹介受診となった。 ![]() 臨床診断のポイント
生理的な耳道付着物(皮脂や鱗屑など)を耳垢と呼称しています。耳垢は主成分により乾性から油性を呈し、色調は白色ないし黄色、二次的な微生物の影響により茶褐色や黒色を帯びています。一方耳漏は滲出液、血液、膿汁等による病的な分泌物です。自験例の外耳には赤褐色を帯びた耳漏がみられ、出血が予想されました。出血を伴う耳疾患の鑑別には外傷、感染、腫瘍などがあげられます。自験例では当初両側性に耳垢ないし耳漏がみられたようですが、最近月単位で進行する片側性病変がみられます。高齢であり、耳下のしこりを形成していることから、腫瘍が予想されました。外耳領域の病巣であれば、まず耳垢腺腫瘍に注目する必要があります。 初診時方針のポイント
暗くて狭い耳道の観察にはビデオオトスコープが有用です。従来の耳鏡に比べ格段に光量が多く、さらに画像を拡大保存することで詳細に観察できます。耳漏があれば、これを洗浄除去して観察します。膿汁があれば、採取し細胞診とともに薬剤感受性試験を実施します。なおビデオオトスコープですが、耳道の曲がりを直線に伸ばすことで鎮静麻酔をかけることなく使用できます。耳道から観察でない軟部組織や骨部領域の評価にX線検査を汎用しています。悪性腫瘍が予想される場合は胸部も撮影します。腫瘍の確定診断には生検が不可欠です。もちろんこの場合は麻酔を要します。腫瘍の精査にはCT検査やMRI検査も不可欠であり同時に実施します。もちろん麻酔管理や生検に先立ってCRP、T4、凝固系を含めた血液検査も実施しています。自験例では右水平耳道に赤色を帯びた化膿臭を伴う耳漏が充填、これを洗浄除去後同部位に出血を伴う不整な乳白色多房状結節を認め、CT/MRIにて水平耳道付近に耳道から周辺に浸潤する結節、その近位には膿瘍を思わせる構造、さらに骨部の一部融解や鼓室胞壁には中耳炎を思わせる炎症がみられました。組織学的に腺構造を有した異型上皮の増殖がみられました。以上より耳垢腺癌と診断しました。 |