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症例64:肉球の角化
(チワワ雑種,13歳齢,去勢♂)

2018年2月頃より四肢端を舐め、食欲はあるが元気なく近医受診、四肢肉球に皮疹がみられ、セファレキシンを処方するも鼻鏡の色素脱失や肛囲の紅斑も生じ同年3月26日当科紹介受診となった。発症に先立ち環境や食事の変化はない。

臨床診断のポイント

肉球に広範な角化性皮疹がみられます。角化とは表皮細胞が皮表の角質層に到達する工程であり、角化の増強は表皮の細胞増殖が顕著な場合、角層の固着力が増強した場合、水疱や膿疱が先行した場合にみられます。スパニエル系やレトリーバー系種では、加齢に伴う生理的変化として認められます。また外的要因として乾燥や物理化学的刺激が関与することもあります。病的な角化は感染症、先天性疾患、腫瘍、免疫疾患、代謝異常などにより生じます。自験例では四肢の肉球に発症し、高齢であり皮疹とともに体調不良も生じていることから代謝異常が疑われました。肉球に角化性皮疹が生じる代謝異常には亜鉛関連性皮膚症、壊死性遊走性紅斑(浅在性壊死性皮膚炎、代謝性表皮壊死症)、甲状腺機能低下症等があります。皮疹は不規則な黄褐色を帯び、明らかな潰瘍のない角層の剥脱がみられ、さらに淡い紅斑がみられたことから、壊死性遊走性紅斑が疑われました。

初診時方針のポイント

壊死性遊走性紅斑は低アミノ酸血症による皮膚蛋白の枯渇により生じる皮疹と推察されています。その診断的特徴は皮膚病理に表現されることから、診断には皮膚生検が推奨されます。比較的フレッシュな角化を伴う紅斑を採取します。脆弱な表皮はサンプリングの時期や外傷や感染などの影響を受けやすいので、複数個所から採取しています。また本症は肝臓皮膚症候群とも呼ばれるように、血液検査でアルブミンや赤血球の低下とともに肝酵素の上昇、また肝エコーにより本症に特異的な肝細胞の変性による蜂の巣状構造を認めます。合併症および鑑別疾患となる内分泌系の評価として、甲状腺ホルモン測定(T4)、副腎機能検査(ACTH刺激試験)も実施されます。皮膚科的には二次感染に配慮した検査として細胞診や細菌培養検査が行われます。