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症例66:鼻の角化
(ベンガル、1歳齢、去勢♂)

2014年12月頃より鼻がカサつき、2015年夏頃白くなり近医受診、ワセリンや抗菌薬で改善なく徐々に悪化し2016年3月5日当科紹介受診となった。なお体調不良を思わせる病歴や徴候はなかった。

臨床診断のポイント

鼻には毛包がなく基本的に表皮と真皮で構成されています。したがって皮表の変化が強調されれば表皮の疾患、その変化に乏しければ真皮の疾患を予想できます。自験例の皮疹は皮表に白色調を呈した鱗屑の堆積がみられ、真皮の異常を予想させる明らかな隆起や潮紅は認められませんでした。したがって表皮の異常、特に角化異常を呈する疾患が予想されました。また鼻に限局した皮疹が対称性に分布しています。鼻に限局する病変では、鼻を標的とした物理的化学的刺激、感染、気候等の外的要因、また鼻を構成する蛋白や構造的特性に関与した内的要因(先天性、免疫異常、代謝異常、循環障害)等が病態的鑑別です。自験例では皮疹が対称性に分布し外的刺激を疑う病歴に乏しいことから、内的要因による角化異常を予想しました。さらに幼少期より緩徐に進行していることから、免疫異常の典型とはいえず、先天的な角化異常、あるいは代謝異常や循環障害が疑われました。なお日頃みることの少ないベンガルという種に注目すると “Ulcerative nasal dermatitis” という疾患が報告されており、臨床像はこれに合致しています。

初診時方針のポイント

診断には皮膚生検が有用です。鑑別すべき病態として免疫異常、代謝異常、循環障害等を考慮し、通常のホルマリン固定以外に免疫染色を考慮した凍結固定があると有用です。体調に特記すべき異常がないので、免疫及び代謝性疾患についてはスクリーニング評価として血算、血清生化学検査、炎症マーカー SAA、また便や尿の検査を提案しました。なお鼻の生検には全身麻酔が必要なので、同時に肺野の評価を目的とした胸部X検査、あるいは純粋猫であることより心筋症の説明と共に聴診とともに心エコーが行えると安心です。また改めて代謝に影響する食事内容の聴取、また局所外的要因の関与に配慮した家庭における観察も大切です。本質的な治療は生検結果を待って実行すべきですが、生検後は対症療法として保湿を目的とした尿素軟膏、あるいはバイオバーム等を使用するのも一考と思われます。