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症例7:鼻の脱毛斑
(スコティシュ・ホールド,7カ月齢, ♀)

平成15年4月7日に購入、左上眼瞼にがさがさと薄毛を認めた。徐々に脱毛が拡大し同年4月16日近医受診。アイボメックで改善なく、その後尾にも脱毛を認め同年5月22日当科紹介受診。初診時現症として、鼻梁、右耳介外側、左頸部腹側、四肢足背指関節背に脱毛斑がみられ(写真)、左耳輪には鱗屑、尾腹側には落屑性脱毛斑が2カ所認められた。
臨床診断のポイント
脱毛は先天性および後天性疾患により生じますが、脱毛斑(限局的な脱毛)は通常後者により発症します。その病態は、主に毛包の病的状態と毛の病的状態に大別されます。猫では後者が多く、外傷と皮膚糸状菌症に留意しています。猫の皮膚糸状菌症は80~98%がMicrosporum canis感染症です。感染毛は脆弱になり毛幹が折れるので、残存する毛が切株様にみえます。また皮疹部では色素沈着や鱗屑もよく認められます。本症は子猫で経験することが多く、顔、肢端、尾端に好発します。自験例の臨床像はM. canis感染症の典型と考えられました。
方針のポイント
M.canis感染症の診断では、鏡検あるいは皮膚生検により菌要素の増殖を確認する必要があります。皮膚掻爬検査により毛を採取し、弱拡大にて本来の毛構造を失った褐色毛を探します。このような毛を強拡大すると毛皮質内に充満する石垣様菌要素を認めることができます。なお菌の同定には真菌培養検査が必要です。またウッド灯検査はM.canis感染症の約半数で陽性を示すことから、本症の診断とともに、治療経過を評価する検査として有用です。
猫のM.canis感染症は自然軽快することもありますが、早期改善、キャリアーへの移行阻止、また人獣共通感染症を考慮し、通常積極的な治療を提案しています。
参考文献
獣医臨床皮膚科 10;13-14, 2004.