Top page > Members Only > 症例8:躯幹の脱毛(スタンダード・プードル,3歳齢, ♀)
症例8:躯幹の脱毛
(スタンダード・プードル,3歳齢, ♀)

平成14年10月頃眼脂が生じ近医受診、頬、頭部から背、前胸部、臀部の脱毛を指摘された。内服で治療するも改善なく転院、その後アレルギーと診断され治療されたが徐々に拡大し平成15年8月N動物病院受診。全身の剪毛、シャンプー、セファレキシン、プレドニゾロン、ケトコナゾールで皮疹の改善傾向を認めるも軽快せず、同年11月1日当科紹介受診。初診時現象として、略全身の薄毛とともに、躯幹を中心に鱗屑や角栓もみられた(図)。
臨床診断のポイント
脱毛や薄毛は、先天性疾患、毛周期の異常、毛包の病的状態、あるいは毛の構造異常により生じます。自験例は2歳で発症しており、少なくとも先天性疾患の典型ではありません。また毛の構造異常では、通常角化性病変(鱗屑や角栓)を認めません。したがって、毛包の病的状態や毛周期の異常が予想されます。毛包の病的状態には感染性毛包疾患(膿皮症、皮膚糸状菌症、ニキビダニ症)や非感染性炎症性疾患(円形脱毛症、リンパ球性毛包上皮炎、脂腺炎)、毛周期異常には休止期脱毛状態や内分泌疾患などがあります。これらを検査や治療で鑑別しますが、自験例は臨床的に炎症像に乏しいことからニキビダニ症、内分泌疾患、リンパ球性毛包上皮炎、脂腺炎に注目すべきであり、犬種と年齢を考慮するとまず脂腺炎を疑うべきでしょう。なお脂腺炎ではマイボーム腺(脂腺由来)の異常による眼脂を認めることがあります。
方針のポイント
脂腺炎は臨床像とともに組織学的に確定診断されます。したがって初診時検査として毛検査、皮膚掻爬検査などによる感染症の否定、内分泌疾患を考慮した血液検査やT4値測定と共に、皮膚生検を施行します。皮膚生検は少なくとも3カ所以上実施します。典型では摘出標本すべてに脂腺の異常を認めますが、一部に脂腺構造がみられる症例では組織学的鑑別疾患として内分泌疾患、リンパ球性毛包上皮炎に留意する必要があります。なお検査結果が得られるまで、膿皮症を考慮し経口抗生剤を処方しています。
参考文献
獣医臨床皮膚科 10;61-62 2004.